寒いって言うの禁止

 よく使われるフレーズだ。冬空だってのにアッツアツのカップルなんかが、「おいおい、そういいながらミキこそ先に寒いって言ってんじゃーんあはははまてまてー」なんていう馬鹿丸出し系の幸せそうな会話をしている時によく聞く。ミキちゃんがかわいらしいのならとても微笑ましい光景なのだが、ミキちゃんがハリセンボンの片割れ(どちらでも可)のようであった場合には、思わずつばきを吐きかけずにはいられない衝動を抑えるのにみなさんも必死なことだろう。
 おそらく全国2500万の、そして北半球の北方部を入れると3億とも呼ばれるみなさんが、しかしながら寒い寒いと同じフレーズだけエイトビートでささやきつづけるものだから、となりにいてじっと我慢するタイプの方々はそれを禁止せずにはいられなくなる気持ちもわかる。
 寒いって言うの禁止ね。いや、僕も正直何度も言われたし言った言葉だ。毎年実は流行語大賞的に北国の人々には使われているフレーズではなかろうか。リサーチできるものなら、ひと冬のトータルを統計してみたい。ひとりあたま15、6回というとこではなかろうか。
 禁止、しかしそこに罪が問われない場合、人はそれを気にかけない。そこで、だ。寒いって言うのを禁止する時に何を罰として課すべきか。そこが重要となる。
 おすぎとピーコの物まねをする。
 少し違うかもしれない。いや、かなり逸脱している上に、あまり罰とはいえない。
 Tシャツ姿で寒空を歩く。
 条例に対する罰則の反意を超えている。やりすぎだろう。
 おもむろに雪をすくい、ほっぺたに擦り付ける。
 おうっ。これは効果的かもしれないが、、、その瞬間に思わず冷たいっ寒いっと叫び、また新たにキップを切られてしまうのだ。罪を犯し、罰を受けるとまた同じ罪を犯してしまう。非常にシェイクスピア的ではあるが、やはりやりすぎかもしれない。
 一番いいのは、、、はたして何なんだろう。
 なんて考えていると、バスは自分の停留所についていた。バス亭は標識に雪をたたえ、『丁目』の部分が見えない。少し間抜けな読みになるのだ。
 はぁさむ。