ドキドキずるずる

 今日は色々初体験したが、何の初体験かはあえて記さない。
 この年になっても初めて何かを経験するというのは、冬山に餌を探しに行くお腹ペコペコで冬眠できない熊みたいで、どこか諦めていることだけれど(もちろんそれはティーンエイジャーのあの頃のような輝く体験に対してのみを指す!)、偶然にも餌にありつく機会というのは突如として突拍子も無い方角からひょいとおとずれるものだ。
 今日は予想外にドキドキした。緊張とは縁の無い性格である僕は、この『ドキドキ』にめっぽうよわい。ドキドキのある方向へ吸い寄せられるように向かってしまう。
 本当は『ドキドキに弱い』のか、それとも『ドキドキを求めている』のかは自分でもわからない。もしかしたらアリ地獄のようなものなのかもしれない。決して近づくべからず。しかし危険なものにほどドキドキするのも確か。
 たとえそのドキドキと危険の間にぶっといマジックでぶっとく一直線が描かれていたとしても、高揚感のなかでは目の前にある危険のその後を想像する力はすっかり吸い取られ、半笑いを浮かべたままずるずると力なく逆円錐の砂を下方へと吸い込まれていくのである。そうしてドキドキずるずるしている間にも迫り来る危険をある時から僅かずつ認識し、そうして今度はドキドキが薄れてゆく。ドキドキがゼロになる頃には危険だけが残り、その後にはぐったりとした疲労感だけが残る。
 ああ、まるで大人になりかけてしまった自分みたいだ。
 ドキドキずるずるドキドキずるずるを繰り返し、最後にはドキドキを失い、そうして僕は大人になっていくというのか。